夢のトイレ69

夢のトイレ69  8月上旬のよく晴れた日だった。木古内国保病院を過ぎたところで右折し江差方面へ抜ける山道へ入った。道路はすぐに細くなり道のギリギリまで木々が迫る。道はくねくね曲がりながら、時々JR木古内線の線路と伴走する。さらに進むと名前の知らない無人駅が見えてきた。いったん駅の前に車を停め外に出てみる。ドアを開けたとたんセミとキリギリスの鳴声が聴覚がおかしくなるほどの大音量で迫ってきた。そして車の外に一歩足を踏み出すと肌には突き刺さるような暑さが降り注いだ。たちまち「ビール!」の文字が頭を踊ったが、それを無理やり封じ込め、ボクは駅舎の方へ近づいていった。歩きながら足元に注意する。駅舎の壁も入念に見て回る。「さすがにこんな暑い昼間にはいないか」 ボクはそう呟きながらも見落としがないか、さらに少し時間をかけて駅舎の周りを歩いてみた。数分もしないうちに全身から汗が噴き出してきた。これは昨日の晩に飲んだ焼酎だろう。顔から出た汗は、まさに滝のように顎を伝ってしたたり落ちてくる。暑さよりも、この汗に我慢ができずボクは車に戻ることにした。車に乗り込み助手席に放り投げてあったタオルを手に取り首に巻きつけた。エアコンの効いた車内は別天地のような涼しさだった。 (つづく)