夢のトイレ52

夢のトイレ52  防波堤の上に立ち、もう一度周囲を見渡した。うまいことに車や人の姿はどこにもない。防波堤のすぐ下は、すぐに砂浜になっていた。ただ問題なのは、こちらは道路側より高さがあること。飛び降りれなくもない高さではあるが、今のボクには強い便意がある。このまま飛び降りれば地面に着地した途端に出ちゃうだろう。ボクは海を背にして後ろ向きになり、両手で防波堤にしがみつきながら足から先にゆっくりと体を下ろしていった。防波堤は垂直ではなく、若干の角度をもって設置されていたため、便意のさなかにあるボクでも、意外と軽快に降りてゆくことができた。体がコンクリートに擦れながらズリズリとゆっくり降りてゆく。そして右足をぴんと伸ばすとつま先が砂の地面に触れたのが分かった。もう大丈夫、そう思った時だった。すぐ目の前に見えていた両手が突然、防波堤の上を滑りはじめた。いや、実際には一瞬のうちにボクは落下したのであろうが、ボクには滑りゆく両手の動きがスローモーションのように見えていた。 (つづく)