夢のトイレ21

夢のトイレ21 どう見てもそれは一万円札だった。正確には、一万円の札束であった。一万円の札束が便器の底に水に浸かった状態で詰め込まれている。500万円くらいはあるだろうか。ボクはすぐに個室のドアを後ろ手に閉じて鍵をかけた。そして札束に手を伸ばそうとしてためらった。よく見ると札束は水に浸かっているのではなく、黄ばんだ水、つまりは流し忘れたところに浸かっていたのである。いずれにしても額が額だけにネコババはできない。店内には監視カメラもあるからすぐにバレるだろう。でも、ボクが気づかずに用を足して流してしまったとすれば・・・  そう虚偽の説明をすれば、トイレの個室の中の出来事なのだから誰も反証はできないだろう。いやダメだ。今の仕事や生活を犠牲にするようなリスクを背負って生きてゆくのは、どんな大金を手にしたところで辛いこと。なかなかふん切りをつけられないボクは、トイレの個室の中でしばし葛藤し続けた。 (つづく)