夢のトイレ15 「うわっ」 ボクは、そう声に出したのか、それすら分からないほど驚愕していた。そんな気配を察知したのか2人の従業員も駆けつけてきた。「うっ」 2人もボクと同様に声にならない声を発した。トイレの床一面に、ひどくお腹を壊した時のような泥状のアレが広がっていたのだ。出どころは、現在使用中の個室であることは自明であった。個室のドアの隙間からは今もまだドロリと出続けている。不思議なのは、ドアの下の隙間からだけではなく30センチほどの高さでドアの横の隙間からも流れ出てきていることだ。このことから考えられる結論は、個室の中は30センチほどの水位で満たされているということ。足元を見ると、それはトイレの外まで広がりボクの足先まで迫っていた。ボクは逃げるように後方へピョンと飛びのいた。「お客さん、大丈夫ですか」店員さんは中にいる人に声をかけている。しかし返事はない。「お客さん、聞こえていたら返事をしてください」 店員の一人は、果敢にも汚物の上を進みながら、なおも声をかけ続けている。そうしている間にも、それはゆっくりとではあるがトイレの外にどんどん広がりを見せている。そもそも、これだっておかしな話だ。一人の人が、あんなにたくさんするわけがない。そうそう、それにもっとおかしなことがある。ぜんぜん匂わないのだ。こんなに酷い光景なのにちっとも匂ってこない。これはきっと、あのお客さんのタチの悪い悪戯だ。きっとそうに決まってる。ボクはボクの便意も忘れて逃げるように店を出た。 (つづく)
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