3月21日 「日本海・ローカル線の旅」 ボクは、物心ついてからずっと冬の日本海の旅に憧れを感じていました。それも鈍行列車を乗り継ぎながら計画のない自由旅。午後3時、天候は曇り。風が強く車窓の向こうでは日本海が巨大な生き物のように不規則に荒れ狂っている。ボクはおもむろにカップ酒を一口流し込み、幼少の頃にイメージした日本海の風景と照らし合わせてみる。それは、今見ている景色とよく一致しているようにも感じるし、目の前の光景が過去のイメージを塗り替えて、一致していると錯覚しているようにも思えてくる。列車はトンネルに入った。トンネル内を照らす小さな明かりが一定の間隔で車窓を横切ってゆく。少し長いトンネルなのかな。目の焦点を窓ガラスまで近づけるとボクの顔が映っていた。少し大きいというだけで他に何の変哲もない中年男の顔だ。それをじっと見ているうちに、ボクも一人の人間なんだと感じた。社会の中にいつも他人の姿だけが見えていたのが、そこにはボク自身の姿もあったのだと分かった。この旅が終わったら今度は、自分の姿も見続けてゆこう。そうすれば、これまでよりも独りよがりで自己中心的になることもなくなるだろう。車内が急に明るくなった。列車はトンネルを抜け再び日本海に寄り添って走り始めた。 (つづく)
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