第3話 「血痕」
腐った弁当をビニール袋に戻し、匂いがもれないように口をひねって強く結んだ。それを机の下のゴミ箱に捨てようとしたら、フト何かが目に止まった。机の下からゴミ箱を引き出してみると、それが何なのかは一目瞭然だった。本来ならこんなところにあるはずのない出刃包丁だった。しかも、刃の部分も取っ手の部分も赤黒い血で汚れている。
「誰がこんな事。イタズラにしては性質が悪すぎる。でも、もしもこれがイタズラでなかったとしたら一体どういうことなんだろう。血の付いた包丁が、よりによってボクの机の下から出てきたというのは、ボクが失った1週間に何か関係があるのだろうか。」
直接手に取るのははばかられたので、床に新聞紙を敷き、その上にゴミ箱をひっくり返した。そして再び愕然とした。刃には、HENCKELSの刻印が見て取れた。いや、それを見るよりも先に、この包丁がボクの愛用の出刃包丁であることは、見慣れたその形から分かっていた。
「ということは、この包丁はボク自身がここへ?だとしたら、この血は?」
その時、ドアの向こうに急に人の気配を感じた。見られてはいけないところを見られたような、そんな焦りから、ボクはどうしていいか分からなくなり、その場に立ち尽くすよりなかった。気配はすぐに感じなくなった。
「本当に誰かいたのかな?それとも、血の付いた包丁を見て少々気が動転してたから、居もしない人の気配を感じたんだろうか。」
とりあえず、この場はそのままにしておけないので、急いで血の付いた包丁を敷いてた新聞紙で包んだ。
「どこに隠そう。職場は人が出入りするからマズイな。かと言って家に持ち帰るのも…」
とりあえず仕事が終わるまでは、と机の一番下の引き出しを開けると、そこには再びボクを驚愕させるものが。 血まみれのシャツとズボンだった。むろん、これもボクの普段着ているものだった。包丁だけならまだしも、シャツやズボンに、それもかなりの量の血液が付着していれば、おのずとこれは“人“の血であることが想像できる。そしてボクの体には、これだけの出血を来たすような傷跡はない。するとこれは、誰か別の人の血がボクに付着したということだ。もっと直接的な表現を使うと、これはとても信じがたく、とても恐ろしい考えだが、ボクは、ボクの知らないところで誰かを殺したのかもしれないということだ。
「この職場で? まさか同僚を?」
もう一度タイムカードを調べに走った。
☆第3話のあとがき☆
お正月早々、何やら大変物騒な展開となってまいりました。ほんとはSFなのだから、ファンタジックにしたかったのに、どうした訳か血なまぐさくなっちゃいました。今後の展開が気になります。
さて、お正月3日目。みなさまいかがお過ごしでしょうか。ボクは本日、正月当番で出勤しています。ボクの職場は、ビルの3階にあります。そして、ボクの机の下には、ゴミ箱があります。
え、 ウソでしょ… あ、 いや、 あの、 何でもありません。
そ、それでは本日も見て下さって あ、ありがとうございます。
それにしても、どしてこれがここに…
(おしまい)
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